つばき花びら染め

Category Culture

美しさを呼び戻す

「散った椿の花を布の上でもう一度美しく咲かせるの。」

穏やかな口調でゆっくり、つばきの花びら染めのお話をはじめた夢工房の金子弘子さん。

つばき花びら染めは、昭和61年の三原山噴火のあと、伊豆大島らしい産物にと、女優で染色家でもある磯村みどりさんと島の主婦たちが出会い生まれたものだそうです。

椿の花びら染めが施された布を手に取ってみると、優しくて美しい自然の色合いと軽やかな風合いが、春の陽気のように心を和ませてくれます。

そんな椿の花びら染めを金子さんが営む夢工房では体験することができます。

体験の際は椿の花びらから抽出した染め液はあらかじめ用意されているので、まずはお好みの布を選ぶところからスタートです。模様をつけたい場合は輪ゴム等を使って絞り染めをする準備をします。その後、染め液に布をつけこんで染色をする作業へと進みます。

染色の際には、媒染剤と呼ばれる、繊維に染料を固着させる材料を利用することで、様々な色彩に変化させることができるので、より表現の幅が広がります。例えば、銅媒染でグリーンや青に、鉄媒染では茶といったように、椿の鮮やかなピンクに対するアクセントやワンポイントとしてこれらの色彩を上手に取り入れることで、さらに豊かな表現が楽しめます。

椿の花びら染めのもととなる椿の花びら集めは大変な作業。椿が美しく咲き誇る11月から翌春4月上旬にかけて、散った椿の花で道の両脇は赤い絨毯を敷きつめたように美しく彩られていきます。その中を歩きながら、状態の良い椿をひとつひとつ拾い集めていきます。

集めた花は水でていねいに洗って汚れを落とし、ひとひらづつ花びらを外していきます。使える花びらは1つの花から2~3枚程度しか取れない貴重なもの。そんな地道な作業を経て鮮やかな色の染め液が作られていきます。

自然の美しい色彩を一枚の布に丁寧に移していく作業はまさに椿の花の美しさを呼び戻す作業。染め上げた布は世界にひとつだけの大切な一品になることでしょう。

Data

つばき花びら染『夢工房』
東京都大島町元町字新込126-94
TEL:04992-2-2088
http://tubakihanabira.wixsite.com/yumekoubou

※フリーペーパー「12class」第25号掲載記事より

Tsutomu Chiba writer
Tsutomu Chiba
 

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